尋常性ざ瘡(Acne vulgaris・ニキビ)は、最も一般的な皮膚疾患であり、世界中の85% 以上の人に影響を与える疾患です。にきびは、15から24歳の若者の間で一般的ですが、大人でも珍しくないものです。尋常性痤瘡の病因は完全にはまだ理解されていません。病気の発症前に発生する様々な前提となるメカニズムは特定されています。これは皮脂腺のアンドロゲン刺激による皮脂の過剰産生、過剰角質化、毛孔の閉塞と炎症などのことです。にきびのさまざまな種類の炎症性病変 (丘疹、膿疱、結節、嚢胞) と非炎症性病変 (コメド) の臨床的特徴の発生に基づいて区別することができます。
にきびは、しばしば美容の問題と考えられていますが、この病気は患者の心理的、社会的、物理的な幸福に大きな影響を与えます。また、ニキビは外見を損なう傷跡によって生涯への影響があるかもしれません。にきびの存在は、うつ病、不安、怒り、欲求不満、恥じる気持ち、自尊心の低下、社会的孤立と体の不満などの様々な心理的要因と相関しています。
最近の皮膚のガイドラインによると、にきびのための現在の治療法は、抗生物質の内服、レチノイド外用、内服、過酸化ベンゾイルなどの従来の薬物療法です。しかし、従来の治療法は、常に他の菌の抗生物質耐性の発達と局所および全身治療に関連する副作用の潜在的なリスクがあるため、必ずしも理想的なものではありません。
そのためニキビの治療には薬物療法以外にも、様々な非薬物療法が行われています。
最も一般的に適用される非薬物療法は、レーザー治療とフォト治療、ケミカルピーリング、マイクロニードルセラピー、皮膚剥離法と外科的な病変の除去です。
この記事では、我々は、光とレーザーによるにきび治療に焦点を当て、様々なレーザー治療と光治療の有効性、安全性、経験についての現在の研究の洞察を行います。
にきび治療に使用される光治療とレーザー治療は、フォト治療(IPL)、パルス色素レーザー (PDL)、カリウムバリウムチタニルリン酸 (KTP) レーザー、およびブロードスペクトラム連続波可視光(青と赤)を含みます。光療法は、proprionibacterium acnes(P.acnes=ニキビ菌)がポルフィリンなどの光吸収物質を合成しているという観察結果に基づいています。インビトロ研究では、ポルフィリンに青色光線をかけたところ、活性酸素が発生しP.acnesの膜の構造的な損傷を引き起こし細胞死に至らせることがわかっています。実際に 407-420 nm で強力な青色光を1回照射しただけで、ニキビ菌培養の成長は24時間減少しました。さらに2回、3回と青色光を照射することで成長がさらに4〜5ランク後退しました。
P.acnes(=ニキビ菌)は、青色の光による光不活化されることが示されましたが、反面、あまり青色光は皮膚の深部には浸透しません。一方で、ポルフィリンを刺激することによる有効性が青色と比べると低い赤色光線はより皮膚の深くまで達することができます。赤色光線はマクロファージからのサイトカイン放出を誘導することにより抗炎症作用を有する可能性があります。青、赤色光療法の組み合わせは、過酸化ベンゾイル単独と青色光単独よりも炎症性病変の数を減らすことでより効果的であることが示されました。しかし、コメドの数を減らすことにおいて、3つの治療の間には統計的な違いはありませんでした。これは、青色光がポルフィリン活性化することによりニキビ菌を減らすことに効果的であり。一方、赤色光は、皮膚に深く浸透し、マクロファージのサイトカイン放出の刺激行うことで炎症を減少させることを示します。
すなわち赤色光線単体では非炎症性ニキビではなく炎症性ニキビの減少効果があることが示されます。これらの結果から、青色光と赤色光が相乗的な効果があることが分かります。
青、赤などの単一光療法とは異なり、フォト治療器(IPL) は、多波長光を採用しています。フォト治療器は1994年に商業的に導入され、パルス状の多波長光を生成するフラッシュとコンピュータ制御されたコンデンサーバンクから作られています。その後の処理は、フィルター、フルエンス、パルス持続時間、およびパルス間隔、波長範囲などのユーザーが決定したパラメータによって導かれます。上で詳細に解説した青色や赤色などと共に、フォト治療器による広範囲の波長を有する光の照射は、様々なポジティブな効果をもたらすと考えられています。専門的な言い方にはなりますが、皮膚の内因性発色による光の吸収は、皮脂の生産を減らすための皮脂腺を供給する血管を減少させるのに十分な熱とエネルギーをもたらします。その結果、余分な皮脂腺を減少させます。
現在の研究では、にきび治療として IPLを使用し、様々な結果につながっています。いくつかの研究では、単独で IPL を使用して炎症性のニキビを改善を示しているが、IPL単独およびIPLと光線力学療法(フォトダイナミックセラピー)の併用は、炎症性病変ではなく有意に非炎症性病変の数を減少させたことを示している研究もあります。
Ajay Jらの研究ではニキビ患者さまにフォトを2回照射することで、80%の患者様がexellent(ニキビが75%以上の減少)、11%の患者がgood-fair(ニキビが25-75%の減少)が見られました。特に大きな副作用はありませんでした。
さらに、他の光源との比較では、IPL は、にきび病変を減らすことに関して、青色赤色の組み合わせ発光ダイオードよりも効果的だが、パルス色素レーザーよりも効果が低いとの報告もあります。ただしパルス色素レーザーは紫斑、水疱などの副作用があり、にきびに使用するには効果と副作用のバランスに問題があります。その点IPLは効果と副作用のバランスが良いと考えています。
ただしニキビに対するIPL治療に対してネガティブな意見もあり、IPLによる腫れ、紅斑、水疱、かさぶたおよび痛みといった副作用についての報告書によると、にきび治療の将来にどのような役割を持っているかは不明とのことです。筆者の見解ではこれらの副作用は軽微であり、日本のニキビ治療の現状(欧米で切り札となっているイソトレチノインや抗ホルモン剤が使えない)においてフォト治療は必要である、と考えています。現在、日本の保険承認薬でニキビが改善しない方、保険承認薬が合わない方は10%程度いるはずで、そのような方を放置していいのか?というと決してそうではありません。放置したらにきび痕になる可能性が高いでしょう。そのため、そのような方にフォト治療は必要で、軽微な副作用を警戒してフォト治療自体を避難すべきではない、と考えています。
PDTは光線力学療法 はいわゆる “オフラベル(未承認)”のにきびのための代替治療です。PDT とは,生体内に光感受性物質(増感剤)、 主にポルフィリン関連化合物)を投与し,標的となる生体組織に集積させた後に,特定の波長 のレーザー光を照射することにより,レーザー 光と光感受性物質の光化学反応で生じる活性酸素によって,標的細胞を死に至らしめる治療法です。一般的に青色光は、にきびに対する抗菌効果と抗炎症効果を持っています。光増強剤である5アミノレブリン酸 (ALA) またはアミノレブリン酸誘導体を内服、もしくは塗布すると、それらが脂腺に集まります。そこに青色光線を照射することで、脂腺で活性酸素が発生し、ニキビ菌の殺菌および抗炎症作用を誘発します。高用量赤色光を使ったPDTで皮脂腺の阻害または長期的な破壊を引き起こす可能性があります。
臨床効果は、どの光増感剤がどのような濃度が使用されたか?その薬剤の投与と光線照射までの間の時間のスパン、薬剤の代謝、皮膚の温度および(活性酸素を作るために)組織の酸素がどの程度利用可能か?が効果に影響を与えます。波長と光の線量と放射照度ももちろん、重要です。
にきびのPDTに関する研究の最近の分析では、赤色光は、青色光やパルス光よりも、皮脂腺の破壊する可能性が高いです。治療はしばしば痛みを伴い、顕著な炎症を誘発します。
日本でも一部のクリニックで自費治療で行われています。
フォト療法と比較して、レーザーはより小さい組織の部分に可干渉性(コヒーレント)のライトを集中する能力を持っています。
ニキビ治療におけるレーザー治療の機序は一般的に以下の3つに要約されます。
・ニキビ菌が産生するポルフィリンに反応し、過酸化酸素を発生させ、ニキビ菌を破壊する。
・皮脂腺を栄養している血管に反応しそれを減少し、過剰な皮脂腺の働きを抑える。
・皮脂腺そのものを損傷し、その過剰な働きを抑制する。
例えばチタンリン酸カリウム(KTP) 532 nm 緑色光パルスレーザー治療は、青色光よりも深く浸透し、P.acnesを破壊するためにポルフィリンに反応し過酸化物質をつくると考えられています。KTP は、最小限の副作用でにきびの重症度を短期で改善する効果を持っていることが示されています。しかしながら無作為化対照試験は困難なため、エビデンスはレベルは高くなありません。同様に、にきび病変を減らす585 nm の黄色の光を用いるパルス色素レーザー (PDL) の効果が議論されています。PDL は1つの研究でプラセボの治療に比べて、有意に総病変と炎症性病変を減少させた一方で、スプリットフェイス(顔の半分だけ治療を受ける)の試験では、PDLの治療と非治療に有意差を示しませんでした。さらに、PDL単独では外用薬による局所療法よりも効果的ではありません。
PDLの効果が不確かな結果である1つの理由は、585 nm波長が、内因性P.acnesポルフィリンよりも酸素化ヘモグロビンによってより強く吸収されているという事実であるかもしれない。確かに、PDL 療法は、ポートワイン染みなどの血管病変に対して有効であることが示されています。
パルス色素[ダイ]レーザーの機構は、選択的光熱理論( selective photothermolysis)と直接的な皮膚免疫活性化に基づいています。研究者Omiらがレーザー治療後に照射した部位に皮膚免疫を活性化するという報告もしています。(筆者による単に炎症を惹起しているだけのようにも見える)
エルツェッグらは、パルス色素レーザーがニキビ菌を殺菌するという効果があり、にきびのための効果的な治療法であると考えました。
パルス色素[ダイ]レーザーは一部ではニキビ治療に対して有望であると公表されていますが、前述した通り、効果が安定せずにきび治療の標準治療に発展するかどうかは不明のままです。
レーザーや光によるにきび治療のメカニズムは、おそらくニキビ菌の合成するポルフィリンに反応し活性酸素を作らせ、それによりニキビ菌を破壊することによります。治療はまた、皮脂腺にわずかな熱傷害を引き起こし、余計な皮脂線を破壊する可能性があります。また皮脂腺の血管構造を正常化させるという効果もあるとの報告もあります(詳細不明)。
Bowesらは、軽度の中等度の尋常性ざ瘡において532-nm-チタンリン酸カリウム(KTP) レーザーの有効性と安全性を調べました。それぞれの患者は、顔の半面を532 nmのKTPレーザーで処置し、残りの半面は治療を行わないという方法で治験が行われました。週2回の治療を2週にわたり行ったところ、治療した半面では33%−36%程度のニキビの減少が見られました。副作用も少数の患者に水泡、かさぶたができた程度でした。
比較的導入しやすそうな治療法ですが、筆者の知る限り日本ではほとんど普及しておりません。効果がやや弱いためかもしれません。
1450nmのダイオードレーザーは、皮脂腺の皮脂細胞に損傷を引き起こすことで皮脂腺の働きを抑えます。2006年に出版された論文では、Jihらは、1450nmのダイオードレーザーで3、4週に1回のペースで3回の処置を受けた20名の患者 (Fitzpatrickタイプ II-VI)の結果を発表しました。
顔の半面を比較するために、患者は2つのエネルギー密度の1つのグループにあった (14 または16 J/CM2) を右または左顔の半面に治療を行いました。
初期値と比較した平均ニキビの病変の数の減少率は:
– 第1治療後:42.9% %(14 J/CM2) と33.9 %(16 J/CM2)
– 第3治療後:75.1% (14 J/CM2)と70.6 %(16 J/CM2)
12ヶ月のフォローアップでは76.1%および70.5 %の持続的なニキビの減少が見られました。
ニキビ治療における皮脂腺を対象とする光線療法では、皮脂腺はかなり深い位置にまで分布していることも多く、光線は深い浸透を必要とします。その意味で赤外線領域の波長は真皮の中層あたりで吸収されやすい、という特徴があります。したがって、1320nm-Nd: YAG レーザーは理論的には表皮は保持されながらも皮脂腺は破壊することが可能となります(筆者注:理論的にはそうですが現実はなかなかそうはならない)。治療中に痛みが出やすく、多くの場合この治療で十分な出力を出すことが困難となります。
Orringerらは、1320nm-Nd: YAG レーザーを、顔の半面に3回照射するという治験を46名のニキビ患者に行いました。未処理の皮膚に比べて、治療を行った半顔では、オープンコメドの病変数は、一時的ではあるが統計的に有意な改善が確認されました。ニキビの丘疹または膿疱の平均数の変化に関しては、処置群と制御群の間に有意な差はありませんでした。脂性肌の改善も見られました。
日本ではあまりニキビ治療に行われておらず、効果も高いとは言えませんのであえてこの波長でニキビを治療するメリットは乏しいでしょう。
メカニズムは他の赤外線レーザーのそれに類似しています。Liuら45名のにきび患者の研究では、1540-NM-エルビウムレーザーを用いたフラクショナルレーザーを1ヶ月に1回、計4回の治療で、ニキビの減少率が半年後に72%、1年後に79%、2年度でも75%と長期にわたって優れた効果を示しました。
当院で使用しているフラクショナルレーザーも同様の効果が期待できます。
当院では本邦における膨大な診療実績、およびアジア人の肌に合うことが経験上明らかなフォト治療(IPL)をニキビの光線レーザー治療の第一選択肢とするのが妥当と考え、当院でもフォト治療を第一選択としております。
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