ニキビ治療、と調べると「イソトレチノイン」という薬が検索結果に出てきたことはありませんか?
イソトレチノインはレチノイン酸の一種(イソ体)である飲み薬です。 海外では10年程前からニキビ治療として一般的に使われている飲み薬ですが、日本ではコロナ禍で重症ニキビが増えてから一気に需要が高まりました。
イソトレチノインはネットに良い情報・悪い情報が沢山あって、わかりにくいですよね。
今回の記事では、皮膚科医がイソトレチノインについて丸ごと解説していきます。
試してみたい方、自分に合うか気になる方は、ぜひ最後まで御覧ください。
また、ニキビでお悩みの方、当院へのご相談をお待ちしております。
イソトレチノインはビタミンA( レチノール)の活性型(レチノイン酸)のイソ体(光学異性体の1つ)を抽出したものです。
イソトレチノインを飲むと、
①ニキビの原因となる皮脂腺が小さくなる
②角質による毛穴詰まりを解消してくれる
という2つの作用があります。
特にニキビ治療においては、皮脂腺を小さくする、というメリットが大きいです。
他にもややマニアックな使い方ですが、脂腺増殖症やオイリー肌の治療で使われることもあります。
ニキビ治療の方法は色々ありますが、イソトレチノインでニキビを治療するメリットとして、下記は挙げられます。
①最重症例(他の治療で良くならなかった人)でも治療できる
いわゆるイソトレチノインはニキビ治療において切り札と言える薬でしょう。
②ある程度の期間と量を飲めば、ニキビが再発しない
普通の治療では、治療を止めるとニキビがすぐ再発しますよね。イソトレチノインだけは、ニキビが再発しない状態を目指せる治療なのです。
イソトレチノインは、
体重1kgあたりの積算量が128mgを超えると再発しにくくなると言われています。
例えば体重60kgの人が1日30mg飲む場合、体重1kgあたりの1日量=30(mg)÷60(kg)=0.5(mg/kg)
体重1kgあたりの量が128mgを超える日数=128(mg)÷0.5(mg/kg)=256(日)
つまり体重60kgの人であれば、
1日30mg服用を256日(約8カ月半)
続ければイソトレチノインをやめても再発しにくくなる、という計算です。
イソトレチノインにはもちろんデメリットもあります。
①保険が適用にならないこと
飲む量やクリニックにもよりますが、大体月々15,000円~40,000円ほどかかります。それを8ヶ月~9ヶ月続けるため、費用の負担はデメリットの一つでしょう。
②女性の場合、妊娠中・妊活中は飲めない
妊娠中に飲むと赤ちゃんの奇形の発生率が高まるため、妊婦さん・妊活中の方は飲めません。
ただイソトレチノイン自体は体からすぐ排出されるので、飲み終わって1ヶ月経てば普通通り妊娠していただいて大丈夫です。妊娠中・妊活中は絶対に飲めないので注意してください。
③乾燥
イソトレチノインを飲んでいると皮脂腺の働きが弱まるため、必然的に肌が乾燥しやすくなります。そのため乾燥肌の方や真冬の時期は少し使いづらさを感じる場合があります。
とはいえ当院のように我々皮膚科医が常駐しているのであれば、しっかり保湿剤を処方したりスキンケアのやり方をご案内しますので、それで乗り切れる方がほとんどです。
イソトレチノインの適用(どういうニキビの方に出したらいいか)に関しては、未だに「最重症のニキビ、保険治療で良くならなかったニキビの人に出すもので、簡単には出してはいけない」と仰る方もおられます。確かに昔はそうでしたが、今は世界的に見てもどんどん対象が緩和されているため、中等度ぐらいの人にも処方することが増えてきています。
では具体的に、どんな人に処方する薬なのでしょうか?
①最重症の方
保険治療で治らない最重症の人はむしろイソトレチノインを飲むべきです。
②保険治療をやっても毎回毎回ニキビが繰り返しできてしまう方
保険治療で処方される抗生物質を長く飲んでいる・付けている場合、耐性菌が出る可能性が高くなるだけです。そういう方はイソトレチノインで繰り返しの循環を終わらせましょう。
③ニキビ跡がすぐできてしまう方・ニキビができたらほぼ確実にニキビ跡になる方
そういう方はニキビ自体を1個も作るべきではないため、そういう方はイソトレチノインの適用になります。
④ニキビがあるせいで精神的に参ってしまい、仕事に行けない・学校に行けない・友達に会えない、という精神状態になっている
こういう方はいち早くニキビを治すことが優先されるため、イソトレチノインが適用です。
⑤体にニキビがたくさんある方
薬を体のニキビ全部に付ける、というのは労力的にほぼ不可能です。(手が届かない場所もありますよね)その場合も、早めにイソトレチノインを飲むべきというのが世界的な潮流です。
では逆に、イソトレチノインが飲めない方はどんな人なのでしょうか?
①妊婦さん・妊活中の方。
絶対に飲んではいけません。
②12歳以下の方
イソトレチノインは骨の成長障害を起こし、身長がしっかり伸びきらない可能性が指摘されているためです。さほど沢山の症例があるわけではないのですが、身長が伸び切ってから飲む方が安全だと考えられています。
12歳以下は絶対ダメ、13歳〜18 歳ぐらいは要相談、18歳以上だったら問題ない、と考えています。
イソトレチノインは10mg~50mgと、1日量をかなり調整できる薬です。1日量が多ければそれだけ服用期間は短縮させられますが、副作用もその分起こりやすくなります。
ではどんな飲み方が良いのか?これは私の見解ですが、体重(kg)の半分量(mg)が飲み始め量の目安です。
ただいきなりこの量を飲むと乾燥等の副作用が出すぎる可能性がある場合・副作用が出てしまった場合は、-5mg~-10mgした量がおすすめです。
例
体重 |
飲み始め量の目安(体重半分) |
副作用が気になる・出てしまった場合(-5mg~-10mg) |
50kgの人 |
25mg |
大体20mg程度 |
60kgの人 |
30mg |
大体20mg程度 |
日本人の 平均的な体格を考えると、20mgぐらいでスタートし30mgまで増量、体の大きい人であれば40mgまで増量を検討すると良いように思います。
治療期間は前述の計算式の通り、体重の半分程の量を飲んだ場合で8ヶ月半、余裕を持って9ヶ月程の治療期間が標準的に見込まれます。
次第な部分はありますが、大体1ヶ月あたり15,000円〜40,000円が相場だと思います。ただあまり激安のところだと採血なし・医師診察なしというクリニックもあるようなので、安ければいいというものではない印象です。
イソトレチノインを内服する上でのリスク (副作用)で最も覚えておいていただきたいのが、やはり女性の妊娠です。妊娠に気づかず飲んでしまうと 催奇形性といって赤ちゃんが奇形になってしまう可能性が高まります。そのため妊娠中・妊活中の方はとにかく注意してください。
あとは小さなお子さんに高容量飲ませないこと。身長が十分大きくならない可能性があります。
それ以外は、大きな副作用はありません。例えば肌が乾燥する・唇がパリパリする・人によっては髪がパサつくと仰る方もおられます。脱毛、髪の毛が抜けやすくなる副作用もありますが、イソトレチノインによる脱毛、つまり薬剤性の慢性休止期形式脱毛症においては薬をやめると回復することが殆どです。しかし回復が非常に遅い・理由は不明ですが回復しにくい、という方がいるのもまた事実です。
実は多くの薬に脱毛の副作用が報告されており、あまり過度に恐れる必要はありません。例えば低用量ピルにも薄毛のリスクは報告されています。
うつ病や精神状態に悪影響を与えるというご心配も患者様からよくお聞きします。精神状態に影響を与える・与えない、どちらの論文も多く存在します。最近の海外の学会などでは、「精神状態にはほとんど影響を与えない」という結論に落ち着いています。
私の患者様でも精神状態が問題になった例は一例もないため、ほとんど心配しなくて大丈夫です。
イソトレチノインを飲んでいればほぼ確実にニキビは良くなるため、あまり他の治療と併用する必要性は感じていません。
ただニキビ跡の赤みが目立つ場合はフォト治療、お髭が気になればレーザー脱毛、ニキビ跡が気になればダーマペン・フラクショナルレーザー・花房式治療…など検討されるかと思いますが、イソトレチノイン服用時にこれらの治療を受けることは問題ありません。
ニキビ跡治療や他の治療と並行してイソトレチノインを服用するのは問題なく、むしろおすすめくらいですが、ニキビ治療に関しては併用NGなわけではなく「必要ない」と捉えていただくといいでしょう。もしイソトレチノインを飲んでいてもニキビができるようならば、むしろ他の治療併用ではなくイソトレチノインの服用量を増やすべきと考えます。
いかがでしたか?
・イソトレチノインはニキビ治療の切り札的な薬であり、キチンと飲めばほぼ確実な効果が出る
・妊娠中、妊活中の女性は絶対服用NG
という点含め、飲み方やメリットデメリットについてご紹介いたしました。
日本の イソトレチノインの使い方は海外から10年以上遅れているため、今後もイソトレチノインの解説は続けてまいります。
当院では多数の治療を取り扱っておりますので、「ニキビ跡や脱毛など悩みが沢山あって、並行して治療していいのかわからない…」という方は、ぜひ当院までご来院ください。
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